158 研究系及び研究施設の現状
海老原 昌 弘(助教授)
*)
A -1)専門領域:錯体化学
A -2)研究課題:
a) ランタン型複核錯体をビルディングブロックとする相互作用系の構築 b) 新奇ランタン型複核錯体の合成に関する研究
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 金属原子間に多重結合を持つクラスター錯体の最も基本的な骨格の1つであるランタン型複核錯体をビルディン グブロックとして,架橋配位子や軸配位子に他のユニットと結合出来るものを選択することにより,1次元から3 次元の相互作用系を構築していくことを目的に研究を行っている.この内,ロジウム複核錯体カチオンラジカルと NaX (X = C l, B r, I) の反応によりロジウム複核錯体で初めてハロゲン架橋1次元鎖状構造を持つ化合物を得ること に成功した.また,π共役系架橋配位子を持つロジウム複核錯体カチオンラジカルで金属原子間δ 型軌道と配位子 のπ軌道との相互作用により配位子上に拡がった不対電子の相互作用により,3次元的に結晶全体に拡がった相互 作用系が構築されることを見いだした.
b) 報告例の非常に少ないランタン型イリジウム複核錯体の合成法を開発し,その物性を明らかにすべく研究を行って きた.容易な合成法を見い出した酢酸架橋イリジウム複核錯体を原料として架橋配位子を置換することによりπ共 役系架橋配位子を持つ錯体を合成することに成功した.
B -1) 学術論文
T. KAWAMURA, H. KACHI, H. FUJII, C. KACHI-TERAJIMA, Y. KAWAMURA, N. KANEMATSU, M. EBIHARA, K. SUGIMOTO, T. KURODA-SOWA and M. MUNAKATA, “δMM*-πL Odd Electron Delocalization onto Aromatic Bridging Ligands in a Paramagnetic Dirhodium Complex and Intermolecular p-Stack Interaction in Crystal,” Bull. Chem. Soc. Jpn. 73, 657 (2000).
Z. YANG, M. EBIHARA and T. KAWAMURA, “Homogeneous hydrogenation of olefins catalyzed by a novel tetrarhodium(II) complex as precursor in aqueous solution,” J. Mol. Catal. A: Chem. 158, 509 (2000).
Z. YANG, T. FUJINAMI, M. EBIHARA, K. NAKAJIMA, H. KITAGAWA and T. KAWAMURA, “Halide-Bridged Zigzag Chain of Tetrakis(acetoamidato)dirhodium Cationic Radical Assisted by Hydrogen Bond,” Chem. Lett. 1006 (2000).
C ) 研究活動の課題と展望
近年,金属クラスター骨格を用いた新たな3次元ネットワーク系の構築が盛んに行われている.このような系を構築していく 基本単位としてランタン型複核錯体は適したものの1つと考えられる.ランタン型骨格は金属原子間に結合を持つ化合物の 最も基本的なものであり,金属−金属間の結合の電子状態は3dや4dの金属原子についてはよくわかっており,架橋配位子 や軸配位子の選択により様々な相互作用系の構築が期待される.一方で,金属原子間,金属原子−配位子間の結合は周期 表下位の原子同士で強くなることが期待でき,5d金属を用いればさらに強い相互作用系を構築できると期待される.しかし, ランタン型イリジウム複核錯体は同族のロジウム複核錯体と比べて合成例が極めて少ない.この点から,まず現在はまだ確
研究系及び研究施設の現状 159 立されていない合成法を開発することが必要でり,第1段階としての複核錯体ユニットの合成に成功しているので,これをさ らに発展させ多くのイリジウム複核錯体を合成し,新たなイリジウム錯体の化学を展開させて行きたい.
*)2000年 4月 1日岐阜大学工学部助教授